不動産オーナー様は、早く次の賃借人を入れるために、強制的な追い出し行為をしてしまいたいという誘惑に駆られることも多いかと思います。では、オーナー様が賃借人に解除することを通知しただけで、賃借人がいない間に鍵を換える等の行為に出ることは許されるのでしょうか。
この行動は、いわゆる「自力救済」にあたり、違法行為となります。オーナー様が賃借人から損害賠償を求められたり、住居侵入罪として刑事上罰せられたりする可能性がありますので注意が必要です。
なぜ、オーナー様は上記のように追い出すことが許されないのでしょうか。
賃借人は、賃貸物件を占有する権利を有しています。例えば、賃貸アパートでいえば、賃貸物件で平穏に生活する権利を有しているわけです。そして、いったん賃借人に賃貸物件を貸して、占有権を発生させてしまうと、①賃貸借契約を終了させ、②明渡判決を取り、③明け渡しの強制執行がなされない限り、仮に賃貸借契約の解除を通知したとしても、適法にこの権利を消滅させることはできません。
次に、賃借人が長期間不在としており、賃料も全く支払われていないというような場合に、賃借人は家財道具などを放棄したと考えて、賃借人に無断で賃貸物件に立ち入り、部屋の中にある家財などを勝手に処分することは許されるでしょうか。
実は、このようなことをしてしまいますと、後日賃借人が現れたときに、プライバシー権が侵害されたとして慰謝料を求められたり、中に高級品があったとして多額の損害の賠償を請求されたりすることにもなりかねません。また、刑事上は、窃盗罪に問われる場合もあります。
理由としては、2点あります。まず、賃借人は、他人にみだりに私生活をみられることがないというプライバシー権を有しています。賃貸物件の中は、他人に見られないことが想定されているプライベートスペースそのものですから、仮に賃貸人であっても賃貸物件にみだりに立ち入ったり、賃借人の物品を見ることはプライバシー権の侵害行為となり、民事上は損害賠償請求される可能性がありますし、刑事上は住居侵入罪に該当します。
次に、賃貸物件内に残置された物の所有権は、賃借人にあります。これは、賃借人が長い間留守にしていたとしても、変わりがあるものではありません。したがって、賃貸物件内の残存物を勝手に処分してしまうと、他人の物を勝手に処分したことになり、民事上、損害賠償を請求されてしまいますし、刑事上、窃盗罪や器物損壊罪に該当する場合もあります。
したがって、賃借人が長期間不在としている場合にも、①賃貸借契約の終了、②未払家賃の支払い・建物の明渡判決、③強制執行(残存動産の差押えと明け渡し)という3つのステップを踏まなければなりません。
以上のように、法的な手続きなしに賃借人に明け渡しを求めることが不法行為となることは、判例も認めています。判例は、「私力の行使は、原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続によつたのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許されるものと解することを妨げない。」としています(最高裁昭和40年12月7日第三小法廷判決)。判例の言い回しは、「緊急やむを得ない特別の事情」と判示しており、やや抽象的ですが、要するに、例えば、賃借人が急病で倒れており、中に緊急に入る必要があるとき等の限定的な場合でなければ、賃借物件に無断で立ち入ることは許されないということです。
「緊急やむを得ない特別の事情」があるかどうか判断に迷われた際には、弁護士に相談されることをおすすめします。