賃貸人が賃貸不動産の所有権を譲渡した場合、不動産の譲受人と賃借人との関係については、これまで明文の規定がありませんでした。
そこで、改正法では、対抗要件を備えた賃貸不動産が譲渡された場合には、原則として、賃借人の承諾なくして、賃貸人たる地位が、譲受人に移転する旨を明文化しました。
賃借権の対抗要件については、条文の文言が少し変わりましたが、内容的には変わりありません。
第605条
不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。
不動産の賃貸人たる地位の移転については、賃借権の対抗要件がある場合とない場合とで要件が異なりますので、以下、それぞれの場合についてみていきます。
冒頭でも書きましたが、これまで、賃借人が、借地権の対抗要件を備えたのちに、賃貸不動産が第三者に譲渡がなされた場合、賃貸人たる地位も譲渡人から譲受人に移転するのかについての明文規定がありませんでした。
改正法では、賃借権の対抗要件を備えた賃貸不動産が譲渡されたときは、原則として、賃貸人たる地位は、譲渡人から譲受人に移転すると明文化しました(改正法第605条の2)。賃借人の承諾は不要です。
もっとも、賃貸人たる地位を賃借人に対抗するためには、譲受人が賃貸不動産の登記を具備する必要があります(第606条の2第3項)。
賃貸不動産の譲渡がなされると、原則、賃貸人たる地位も移転しますが、実務のニーズに対応するため、
があったときは、賃貸人たる地位が移転しないと定めました(605条の2第2項)。
第605条の2
先ほど、賃借権の対抗要件を備えた賃貸不動産が譲渡されたときは、原則として、賃貸人たる地位は、譲渡人から譲受人に移転すると書きました(改正法第605条の2)。
この点、賃貸不動産を使用収益させるという賃貸人の債務は、所有者であれば履行することができるものであるため、賃借人の承諾なく、賃貸不動産の譲受人に賃貸人の地位を移転させても問題ないといえます。
そこで、賃貸借の対抗要件を備えていない賃貸不動産が譲渡された場合には、賃貸不動産の譲渡人と譲受人との合意により、賃貸人の承諾なく賃貸人たる地位を移転することができることを明らかにしました(605条の3)。
ただし、登記をしなければ、賃借人に対抗することはできません。
第605条の3
不動産の譲渡人が賃貸人であるときは、その賃貸人たる地位は、賃借人の承諾を要しないで、譲渡人と譲受人との合意により、譲受人に移転させることができる。この場合においては、前条第三項及び第四項の規定を準用する。
賃貸不動産の譲渡により、譲受人に賃貸人たる地位が移転した場合には、敷金返還債務、費用償還債務についても、譲受人に承継されます(改正法605条の2第4項)。