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原状回復義務

原状回復義務

改正前民法では、使用貸借に関する「貸主は、借用物を原状に復して、これに付属させたものを収去できる」(改正前民法第598条)との条項を賃貸借に準用(改正前民法616条)することで、賃貸借終了時に、賃借人の原状回復行為が予定されていましたが、その内容は明文上明らかではありませんでした。

改正民法では、賃借人の原状回復義務を定めるとともに、「原状回復」の内容を明らかにしました。

改正前民法第621条

賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。

ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

原状回復の範囲

賃借物を受け取った後にこれに生じた「損傷」について原状回復義務を負うが、「損傷」には、経年変化及び通常損耗を含まない

  • 経年変化及び通常損耗については、原状回復義務を負わない
  • 損傷について賃借人に帰責性がないものについても原状回復義務を負わない
  • 経年変化:年月の経過とともに生じる自然な劣化     →回復義務なし
  • 通常損耗:通常の使用に伴い生じる損耗         →回復義務なし
  • 特別損耗:通常の使用の結果とはいえない損耗      →回復義務あり

改正前においても、経年変化、通常損耗は、原状回復義務を負わないと考えられていましたが、改正法は、この点を明文化したものといえます。

親和

通常損耗についても原状回復義務を負わせる特約の有効性

原状回復義務についての条項は、強行規定ではないと解せられるため、特約で、通常損耗についても賃借人に原状回復義務を負わせることはできると考えられます。

ただし、賃借人が事業者ではなく個人の場合には、消費者契約法第10条に違反し無効とされる可能性があります。

そのため、賃借人が個人の場合には、たとえば、賃料が相場よりも低額であるとか、通常損耗について賃借人に原状回復義務を負わせることが合理的であるといえるような事情が必要であると考えられます。

一方、賃借人が事業者の場合には、通常損耗についても原状回復義務を負わせることはできますが、その場合も、トラブル防止のため、具体的な補修費用や範囲を、契約書で明確に定めておく必要があります。

消費者契約法第10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)

消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

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