たとえば、契約の売買契約で契約及び手付の授受を済ませ、引き渡しまで1ヶ月というところで契約の1週間前に対象建物が火災で減失していたことが判明した場合、売主の建物引渡し債務は契約締結前から履行不能だったことになります。
このように、契約成立時点でそもそも履行が不能であっった場合のことを原始的不能と言います。
最判昭和25年10月26日は、「一般に契約の履行がその契約締結の当初において客観的に不能であれば、その契約は不可能な事項を目的とするものとして無効とせられる」と、原始的不能の場合は契約自体が無効になるとしました。
この考え方からすると、原始的不能の場合、そもそも契約が無効なので、債務不履行による損害賠償の問題が生じなくなります。
そのため、かかる考え方に立つと、契約締結上の過失として信義則違反を理由に、損害賠償請求の余地があると考えられていました。
伝統的通説に対しては、履行不能となったのが契約1時間前か1時間後かで契約の効力が異なるのは不合理であるなどの批判がありました。
そこで、改正法は、412条の2第2項のなかで、「契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第415条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。」として、債務の履行が原始的に不能であっても契約が有効に成立することを前提にした規定を置いています。
上記事例でいえば、建物引渡し債務が原始的不能であっても契約自体は有効に成立していたことになります。
買主は、契約を解除して支払った手付けの返還を求めることになります。
この時、例えば建物が滅失したのが売主の故意過失によるものであったときは、売主に対し損害賠償請求をすることができます。
1 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。
2 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第四百十五条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。