これまで、賃借人の債務についての保証については、元本の確定事由が定められておらず、保証人が想定外の過大な保証債務を負わされることがありました。そこで、改正法では、元本の確定事由を定め、保証人の責任の範囲を明確にしました。
この点、貸金等に関する根保証契約については、保証債務の元本が確定される事由を定めていましたが、今回の改正で、これを、貸金等根保証契約に限らず、個人がする根保証契約一般にも適用されることになりました。
ただ、貸金債務の場合は、通常、債務者が破産するなど信用状態が悪化したときにそれ以上お金を貸すことはありませんので、借主の経済状態が悪化したときに元本を確定させても、債権者に与える問題は少ないといえます。
一方、賃貸借契約においては、借主の経済状態が悪化しても、通常、直ちに賃貸借契約は終了しません。
それにもかかわらず、①主債務者の財産について強制執行等の申立てがあったこと②主債務者が破産手続きの開始の決定を受けたときに、保証債務の元本が確定するとなると、賃貸人は、保証のないまま賃貸し続けることを強いられることになってしまいます。
これでは、賃借人の経済状況が悪化したときのための保証人なのに、肝心な時に保証されないのでは、保証人をつけた意味が少なくなります。
そこで、賃貸借契約等についての保証債務には、元本の確定事項として、上記①②の事項を排除しました。
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第465条の4
注意したいのは、借主または保証人が死亡しても、賃貸借契約は存続しますが、借主または保証人が死亡した時点で、元本が確定してしまうということ
です。借主が賃料を3か月分滞納して死亡した場合には、保証人はその3か月分の賃料については支払い義務があります。しかし、死亡後、明け渡しまでの賃料については、保証人に請求することはできなくなります。
また、保証人が、賃貸借契約継続中に死亡し、その後、借主が賃料を滞納しても、保証人死亡後の滞納については、保証人の相続人に責任を問うことはできなくなります。
では、かかる原本の確定事由について、例えば、「保証人の死亡で元本は確定しない」などの特約を定めることはできるでしょうか。
この点についても、判例の蓄積を待つことになると思いますが、保証人の保護を図った改正法の趣旨からすれば、元本の確定事由は強行法規だと考えておいたほうが無難でしょう。
賃借人が賃貸借契約継続中に死亡した場合、死亡後から明け渡しまでの賃料滞納については保証人に責任を問えなくなるという問題のほかに、賃借人がマンションの室内で死亡した場合、原状回復義務や損害賠償義務について、保証人の責任は及ぶのかという問題があります。
賃借人が室内で死亡し、長期間発見されずそのまま放置された場合、室内が損傷したり、新たな借り手が見つからないなどの損害が出ることがあります。これらの損害について、保証人に責任を負わせることができるのでしょうか。
まず、そもそも、賃借人がマンション室内で死亡した場合に、通常損耗以上の損耗について、賃借人の相続人に原状回復や逸失利益の損害を請求することができるのでしょうか。
この点、賃借人の死亡といっても、自然死の場合と自殺の場合、第三者による死亡の場合など、様々な場合がありますが、少なくとも、自殺の場合には、賃借人が室内を適切な方法で使用するという善管注意義務に違反していると考えられますので、通常損耗以上の原状回復のみならず、債務不履行の損害賠償として逸失利益についても請求することができる場合があります(東京地裁平成19年8月10日)。
改正法では、保証人の責任は、賃借人の死亡によって元本が確定しますが、上記損害については、たとえ、腐敗等で損害が拡大したのは死亡後の事情だとしても、そもそも賃借人の死亡によって生じた損害ですので、保証人に責任を負わせることができるとの結論も考えられると思われます。
この点についても、今後の判例等をみていく必要があります。