Aさんは土地の購入を考え、近くの不動産屋で土地を紹介され、その場で買付申込書を書きました。
しかし、その日の夜、申込書を出したことを後悔し、申込を撤回したいと思い、相談に来られました。
不動産を購入する場合、不動産業者から物件情報を聞き、現地案内を受け、購入希望条件を明確にしてから、買主に対して買付申込をします。
買付申込は、希望売買代金や希望引渡日などの基本的条件を示すことが多いですが、自分が気になる点があればそれも示すべきです。
この買付申込を踏まえて、売主との価格交渉などの本格的な個別交渉となります。
交渉がまとまれば、売買契約をします。
結論から言えば、法律的には可能です。原則では買付申込をしたとはいえ、売買契約が成立するまでは売主買主相互に、いつでも交渉を打ち切ることが可能です。
しかし、契約の成立に対する強い信頼を相手方に与えたにもかかわらず、その信頼を裏切り交渉を一方的に打ち切った場合、相手方が被ってしまった損害を打ち切った側に責任を負わせるのが考えが、契約締結上の過失の理論です。
この理論により、買付申込をした全ての者に責任を負わせるのではなく、契約条件がほとんど確定している、契約書案が7回作成された、契約に向け工事や駐車場契約を解約するなどの購入に対する信頼が高い事情がある場合に打ち切った側に責任を負わせます。
そして損害賠償は、直接に被った損害に留まります。
Aさんは、申込から日が浅いので、撤回することが可能でした。
このように撤回出来るとはいえ、不動産業者との信頼は損ねてしまいますし、迷惑をかけることになりますので、撤回する場合はでき得る限り早めに行うべきです。
なお、中古物件にはあまりないですが新築分譲物件の場合には買付申込と共に申込証拠金(10万円程度)を売主に支払うことがあります。
申込証拠金は、売買契約が成立したときには、手付金や物件の売買代金に充当されます。
申込証拠金の性質は、①購入意向が高いことを売主にアピールする目的のための金銭交付、②売り止めの代償目的のための金銭の交付、③売買予約契約の手付金という種類があります。
通常は➀であることが多いですが売主側の意図は異なるかもしれませんので、申込証拠金の支払いを求められた場合は、その性質を確認するとともに、金銭の授受の目的と金額、支払日などが記載された預り証を受け取りましょう。
買付申込を撤回した場合に申込証拠金の返還ができるか否かは、まず売主買主間で、証拠金の返還についての合意に従うことになります。
次に合意がない場合には、申込証拠金の授受された状況などから、証拠金の性質が➀②③のいずれか判断して、①ならば売主側は返還すべきで、②ならば売主側は返還する必要がない可能性が高く、③ならば買付申込した者は手付を放棄して予約契約を解約することになるでしょう。